Buried Alive

生き埋めになったオタクが地中での余生を綴る

いちMLBファンの思い出に残った瞬間 - その2 - 2015年、アメリカンリーグ・ディヴィジョンシリーズ、第5戦

在宅が続くと運動不足になります。
深夜徘徊でもして運動をしましょう。
おはようございます、二条です。

 

凝りもせずMLB思い出シリーズ第2弾、今回は2015年アメリカンリーグ・ディヴィジョンシリーズ第5戦、トロント・ブルージェイズテキサス・レンジャーズの試合をお送りします。

 

2015年、トロント・ブルージェイズが22年ぶりのプレーオフ出場となるアメリカン・リーグ東地区優勝を成し遂げました。前年オフ、4選手を放出しジョシュ・ドナルドソンを獲得。パイレーツからFAで正捕手のラッセル・マーティンを獲得しました。
7月末にはプレーオフを狙って更なる積極補強。先発ローテーションの軸のデビッド・プライス、大型遊撃手のトロイ・トゥロウィツキを獲得。
また、8回アーロン・サンチェス→9回ロベルト・オスーナという勝利の方程式へ繋げるリリーフの補強としてマーク・ロウやラトロイ・ホーキンスを獲得しました。

2番に座ったドナルドソンに加え、従来の3・4番であるホセ・バティスタエドウィン・エンカルナシオンも暴れまわり、2~4番打者の3人がアメリカン・リーグ打点ベスト5に全員入る破壊力。ドナルドソンはシーズンMVPを獲得するほどの活躍ぶり。2番打者が41本も打つ打線なんて恐怖でしかありません。

そんなトロントの期待を一身に背負ったディビジョンシリーズでしたが、なんと第1戦、第2戦とホーム、ロジャーズ・センターで2連敗。テキサス開催の第3戦、第4戦のどちらかでホーム・アドバンテージを生かしてレンジャーズが勝利するものと誰もが思っていました。

しかし第3戦は先発マルコ・エストラーダが6回1/3・1失点の好投、後を受けたループ、ロウ、サンチェス、オスーナはランナーを一人も許さずに5-1で勝利。

第4戦、ナックルボーラーR.A. ディッキーが先発、4回2/3を1失点とキッチリ仕事を果たし、打線は3回までにドナルドソン、コラベロ、ピラーがホームランを放ち7得点。8ー4で敵地2連勝を飾り、本拠地でのWin-or-Go-Home-Game、第5戦を迎えることとなります。

 

スプリングトレーニングで左膝前十字靭帯を断裂、シーズン絶望と思われたものの9月に復帰した若手エース、マーカス・ストローマンとフィリーズからのトレードで加入し、レンジャーズ移籍後7勝1敗のエース、コール・ハメルズの先発マッチアップでスタートした第5戦。

1回表、先頭打者のデライノ・デシールズが二塁打で出塁すると、チュ・シンスの内野ゴロで進塁、続くミッチ・モアランドの内野ゴロでホームに突入し生還。3回表にはチュのソロホームランでレンジャーズに追加点。

しかしブルージェイズも3回裏にすぐさまバティスタ二塁打で1点を返すと、6回裏にはエンカルナシオンが同点ソロホームラン。2-2で7回に突入します。

 

7回表、事件が起きました。

交代直後のサンチェスから先頭のルーグネッド・オドーアが安打を放ち出塁すると、ルイス・ジメネスの送りバントで進塁。続くデシールズの内野ゴロをドナルドソンが素手で処理する好プレーの間にも進塁し、2アウト3塁。

ここで打席に入るのは今日ホームランを打っているチュ。カウント1ボール2ストライクからのストレートが高めに外れ、2ボール2ストライク。

バッターのチュが袖を直すために左腕を前に突き出した直後、マーティンの返球が突き出した左手に当たってしまいます。

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ボールが内野を転々とするのを見た三塁走者のオドーアは即座にスタートを切り、ホームを踏みます。

しかし球審はオドーアに三塁に戻るように指示。この判定にレンジャーズの監督ジェフ・バニスターは抗議に出ます。

解説のハロルド・レイノルズも判定に疑問を呈し、「なんでこれがボールデッドなんだ? インプレーじゃないか」「チュがホームプレート上に手を出して返球を邪魔していたとでも? ただ次の投球に向けて準備してただけだろう?」「インプレーでオドーアのホームインはカウントされるべきだ」と発言。

球審が全審判を集め協議した結果、判定は覆り、オドーアのホームインが認められた。

 

この判定に黙っていないのがブルージェイズファンだ。判定が覆った瞬間、場内はロジャース・センター、いやMLB史上でも史上最大音量のブーイングが鳴り響き、フィールドにビールのカップが次々投げ入れられた。鳴りやまないブーイング、飛び交うゴミ。"BULLS**T! BULLS**T!"といった汚い言葉のチャントも発生する始末。
ロジャース・センターのバックスクリーンにはこのような文言が掲示された。

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「ファンの皆様、プレー中にゴミを投げ入れたり、フィールドに乱入するのはお辞めください。このような行動をとった方は逮捕され、スタジアムから退場していただきます。」

 

ゴミの投げ入れ等は収まったものの、ファンの怒りは収まらず。
続く7回裏の攻撃が始まってもブーイングは止まず、球審がストライクの判定をすればその音量は更に上昇。c

反撃が期待される中、先頭打者のラッセル・マーティンはカウント1-2からインローのストレートに詰まり力ないショートゴロ、1アウト――

――かに思えた。

ショートのエルヴィス・アンドルスがこのなんでもないゴロをエラーしたのだ。2009年からレンジャーズを支え続ける男のエラーに、チームに動揺が走る。逆に沸き立つのはブルージェイズファン。"Let's go Blue Jays!"コールが360度から沸き起こり、「何かが起こる」と予感させるには十分な雰囲気が出来上がっていた。

しかし続く打者のピラーは外のボールに手を出しファーストゴロ、ファーストのモアランドは左利き、3-6-3のダブルプレーでチャンスは潰え――

――なかった。

なんでもない送球をモアランドがワンバウンドさせてしまい、ショートのアンドルスが捕りきれず。ノーアウト1・2塁。

レンジャーズの2連続エラーにより、同点のランナーどころか逆転のランナーまでが出塁。場内はかつてない盛り上がりを見せた。

続くジャスティン・スモークに代打ライアン・ゴーインズ。初球をファウルした後に2塁走者のマーティンに俊足の代走ダルトンポンペイ。何がなんでも1アウト2・3塁にして同点、逆転を狙うという作戦だ。

しかしそんなベンチの願いとは裏腹に、バントした打球はサードのベルトレの真正面に強く転がってしまう。捕球したベルトレはすぐさま振り向き、三塁のカバーに入っていたショートのアンドルスに送球。これで1アウト1・2塁――

 

 

――のはずだった。

 

まさかの、アンドルスの捕球ミス。

ノーアウト、満塁。

解説のレイノルズも"Oh my gosh..."と呟くが、場内の大歓声がそれをかき消すほどの大音量に。

ブルージェイズの監督、選手、ファン全員が思ったことだろう。「ここしか、ない」

本来なら終わっていたような攻撃を、神様がお恵みくださった。

 

しかし続くベン・リビアの打球はファーストゴロ。本塁アウト。1アウト満塁。

三塁走者のポンペイのスライディングに捕手のロビンソン・チリノスが倒されのを見て、バニスターはすぐさま「守備妨害ではないか」と抗議にでる。

この年の最優秀監督に輝くだけあって、敵地でも常に冷静で、ここぞといった時に勢いを潰しにかかった。ビデオ判定の後、守備妨害はないとして試合が再開されたが、さらに勢いを潰す投手交代。この間が空いてしまっては、もしかしたらこのチャンスも潰れてしまうかも――そんな考えが、当時観戦していた僕の頭をよぎった。

ブルペンから呼ばれたのはハードボーラーのサム・ダイソン。三振さえ取ってしまえば、内野のエラーも関係ない。

バッターは2015年MVP、ジョシュ・ドナルドソン。ここでMVPが打ち取られてしまえば、試合は終わったも同然だった。

カウント2ボールから甘い球を狙ったドナルドソンだが、インサイドに食い込むツーシームにどん詰まり。打球は力なく上がるだけだった。

これで、2アウト満塁――バティスタに全てを託すしかないのか――そう思った人間がほとんどだろう。

 

神は、再びジェイズに味方した。

1アウト満塁というシチュエーションで、ダブルプレーバックホームに備えて少し前に守っていた二塁手ドーアの頭を、何か見えない力に押されたかのように打球が越えていったのだ。オドーアはすぐさま打球を拾い二塁に送球するが、アウトは1つしか取れず。正直、バックペダルを踏まず外野手のように半身になって追いかけていれば捕れたかもしれない打球だった。2アウト、1・3塁。

"Are we tied? ......My goodness." - Harold Reynolds

解説席で試合をその目で見ている解説者すら、まことしやかに信じられない状況。

同点。そう、同点。

打席には、ホセ・バティスタ

数球団を渡り歩き、一時期には日本行きの話も出た。

2004年にデビューするも、その年に球団をたらいまわしにされ、なんと1年で5球団を渡り歩くことになったバティスタユーティリティプレイヤーとして守備位置こそ定まらないもののレギュラー格にはなるが、主力として扱われるほどではなく、一時期日本移籍の話まで出た。

(余談であるが、バティスタ(MLB通算344本塁打)と同時に獲得を検討されていたのがネルソン・クルーズ(MLB通算401本塁打)であり、結果的に阪神タイガースが獲得したのは「あの」ケビン・メンチである)

そんな中、5年目にトレードでブルージェイズに移籍。翌年のシーズン終盤に主力が放出され結果的に守備位置も固定されたことで好調を呼び、ブルージェイズ3年目の2010年に覚醒。この年、54本塁打。翌年も43本塁打で2年連続のホームランキングに輝き、薬物使用を疑う声まで出たほどだ。

チームが長年下位に沈む中でも本塁打を打ち続け、「トロント・ブルージェイズの選手といえば?」と質問すればほぼすべての人間が「ホセ・バティスタ」と答えるほどの選手が、ついに辿り着いたプレーオフ

神様が与えてくれたイニング。

神様が与えてくれた同点劇。

全て、この男の為に演出されたかのような――後から思い返せば、そうとすら思えるシチュエーションだった。

 

ここしか、ない。

 

カウント1ボール1ストライクから投じられたツーシームを弾き返すと、打球は左中間へ一直線。

 

ついに、逆転。

 

 

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打った後のドヤ顔バット投げまで含めて、伝説でした。

これがきっかけで、翌年も遺恨が残り事件が起こるのですが――それはまた、別のお話。

 

 

 

「いや、チョイス浅くね?」みたいに言われそうですが、やっぱりこのバティスタのホームランは外せないですよ。第1弾がナショナルリーグで1番観客の歓声が凄かった試合なら、第2弾はアメリカンリーグで書こうと思った次第です。

まあ、第10弾まではMLBファンではない野球ファン向けみたいな感じで書いていこうかと思います。

 

 

では、第3弾に取り上げる予定の試合のヒント。

 

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この曲のイントロさえあれば、MLBファンなら分かりますよね?